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東京地方裁判所 平成5年(特わ)2914号 判決

本店所在地

東京都千代田区神田小川町二丁目六番三号

東洋技建株式会社

(右代表者代表取締役 榎本敦幸)

本籍

東京都港区白金台二丁目二七番地

住居

東京都港区白金台二丁目二七番七-一〇三号

会社役員

榎本敦幸

昭和二一年四月二九日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官加藤昭、私選弁護人井出聰各出席の審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人東洋技建株式会社を罰金一五〇〇万円に、被告人榎本敦幸を懲役一〇月に処する。

被告人榎本敦幸に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人東洋技建株式会社(以下「被告会社」という)は、東京都千代田区神田小川町三丁目二番地(平成六年三月一〇日以降は千代田区神田小川町二丁目六番三号)に本店を置き、一般土木建築工事等を目的とする資本金一〇〇〇万円の株式会社であり、被告人榎本敦幸(以下「被告人」という)は、被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を除外し架空外注費を計上するなどの方法により所得を秘匿した上

第一  昭和六三年一二月一日から平成元年一一月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が三〇八九万八四〇五円(別紙1修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成二年一月三一日、東京都千代田区神田錦町三丁目三番地所在の所轄神田税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三四九万六四〇三円で、これに対する法人税額が一〇二万一六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額一一九九万円と右申告税額との差額一〇九六万八四〇〇円(別紙2ほ脱税額計算書参照)を免れ

第二  平成元年一二月一日から同二年一一月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が四二八二万六二六一円(別紙3修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成三年一月三一日、前記神田税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三八四万一五〇八円で、これに対する法人税額が一〇九万〇七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額一六二二万七二〇〇円と右申告税額との差額一五一三万六五〇〇円(別紙4ほ脱税額計算書参照)を免れ

第三  平成二年一二月一日から同三年一一月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億〇〇〇五万七七六〇円(別紙5修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成四年一月三〇日、前記神田税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が七七一万六七六六円で、これに対する法人税額が二一六万〇四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額三六七六万一三〇〇円と右申告税額との差額三四六〇万〇九〇〇円(別紙6ほ脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する平成五年一二月七日付(本文一一丁のもの)、同月八日付(二通)、同月九日付(本文四丁のもの二通を除く四通)、同月一〇日付(二通)、同月一三日付(本文二丁のもの)各供述調書

一  庵地徹、義岡喜代子、高橋一正、榎本一美(四通)の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の売上高調査書、外注加工費調査書、接待交際費調査書、交際費損金不算入調査書、事業税認定損調査書

一  検察事務官作成の平成六年一月七日付捜査報告書

判示第二及び第三の各事実について

一  被告人の検察官に対する平成五年一二月九日付(本文四丁で売上金額の加算についてのもの)及び同月一三日付(本文五丁のもの)各供述調書

一  大蔵事務官作成の受取利息調査書、道府県民税利子割調査書

判示第一の事実について

一  押収してある法人税確定申告書一袋(平成六年押第三五八号の1)

判示第二の事実について

一  押収してある法人税確定申告書一袋(前同号の2)

判示第三の事実について

一  被告人の検察官に対する平成五年一二月九日付(本文四丁で福利厚生費についてのもの)及び同月一三日付(本文四丁のもの)各供述調書

一  大蔵事務官作成の福利厚生費調査書

一  検察事務官作成の平成五年一一月二五日付捜査報告書

一  押収してある法人税確定申告書一袋(前同号の3)

(法令の適用)

被告会社の判示各事実は、いずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項(判示第一及び第二の各事実の罰金刑の寡額については、刑法六条、一〇条により、平成三年法律第三一号による改正前の罰金当臨時措置法二条一項による)に該当するところ、情状によりそれぞれ同条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で被告会社を罰金一五〇〇万円に処し、被告人の判示各行為は、いずれも法人税法一五九条一項(判示第一及び第二の各行為の罰金刑の寡額については、刑法六条、一〇条により、平成三年法律第三一号による改正前の罰金等臨時措置法二条一項による)に該当するところ、いずれも所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をした掲記の範囲内で被告人を懲役一〇月に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、一般土木建築業等を業とする被告会社の代表取締役であった被告人が、被告会社の事業拡張のための資金等を備蓄することを目的として脱税を企て、被告会社の売上の除外や架空経費の計上などにより、三事業年度にわたり、合計六〇七〇万円余の法人税を脱税したという事案である。ほ脱率は平均約九三パーセントと高率であり、犯行態様は施工業者から小切手を預かっていたことをよいことに、これを簿外の銀行預金口座に入金するという方法、あるいは下請け業者らに依頼して架空領収書を作成するなどいずれも悪質である。このような脱税額、ほ脱率、犯行態様に鑑みると、被告人及び被告会社の刑事責任は重いといわざるをえない。

他方、被告人は、当公判廷において反省の態度を示し、税理士等に相談して再び同種事犯を犯さないように務めていること、被告会社は、修正申告を行い、国税・地方税合計で約一億八三〇〇万円の税金の賦課を命じられ、現在までその約六割に相当する約一億〇八〇〇万円を支払い、残額についても今後支払う旨述べていること、被告人には前科前歴がないことなど、被告人及び被告会社のために有利に斟酌すべき事情も認められる。

そこで、これらの諸事情等を総合考慮して、主文のとおり量刑した。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 被告会社・罰金二〇〇〇万円 被告人・懲役一〇月)

(裁判官 堀内満)

別紙1

修正損益計算書

〈省略〉

修正製造原価報告書

〈省略〉

別紙2

ほ脱税額計算書

〈省略〉

別紙3

修正損益計算書

〈省略〉

修正製造原価報告書

〈省略〉

別紙4

ほ脱税額計算書

〈省略〉

別紙5

修正損益計算書

〈省略〉

修正製造原価報告書

〈省略〉

別紙6

ほ脱税額計算書

〈省略〉

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